「こと座の物語」
2023年7月31日22時頃の南のさいたま市の星空
2023年の7月末の南の夜空には月齢13.8の月がいて座にあります。
夏の夜空で1番明るい恒星は、天頂近くに輝くベガです。
ベガは、全天でも五番目に明るい星で、日本では七夕の星、織姫星として親しまれています。
そして、このベガがあるのがこと座です。
本日は、この「こと座の物語」をご紹介します。
こと座は、ギリシャ神話では、オルフェウスが持っていた竪琴だと伝えられています。
オルフェウスは、芸術の女神・カリオペとトラキアの王様との間に生まれた息子とも、太陽神・アポロンの息子とも言われています。そしてこの竪琴は、父アポロンから、
あるいは、芸術の守護神であるアポロンから、オルフェウスに譲られた竪琴だと言うことです。
オルフェウスは、芸術の女神である母譲りの才能なのか、それとも芸術の守護神である父譲りの才能なのか、並外れて優れた音楽家に成長しました。
彼がこの竪琴を演奏すると、森は静まり、動物たちも聞き入ったと言うことです。
やがてオルフェウスは、美しい妖精のエウリディケと結婚し、幸せな日々を過ごします。
が、それも束の間、エウリディケはある日、野原で毒蛇にかまれ、亡くなってしまいます。
でもオルフェウスはエウリディケを諦めることができません。愛する妻を連れ戻したいと、
彼は冥界へと出かけます。
冥界には、立ち入る者がないようにと、カロンという番人とケルベロスという番犬が見張っています。
このケルベロスは、大きなへびの頭を3つ持つという怪物です。
そこでオルフェウスは、得意の竪琴を演奏し始めました。
すると、その調べにうっとりして、カロンとケルベロスは寝入ってしまいましたので、
その隙に、オルフェウスは冥界へと入っていくことができました。
やがて、冥界の王ハデスの元へとたどり着いたオルフェウスは、妻を地上に戻してほしいと懇願します。
が、ハデスは聞き入れてはくれません。
そこでオルフェウスは琴を取り出し、願いを込めて演奏しましました。
その見事な音色は冥界の全てに響き渡り、これを聞いた王妃・ペルセポネーは、
オルフェウスの思いに心打たれて、エウリディケを地上に戻してやるようとハデスを説得します。
妻ペルセポネーの説得もあり、琴の演奏の素晴らしさに感じ入っていたこともあって、
冥界の王ハデスもようやくオルフェウスの願いを聞き入れ、エウリディケを地上へ戻してやることにしました。
但し、地上に戻るまでは決してエウリディケの顔を見ないと、オルフェウスに約束させました。
オルフェウスは喜んで、さっそく、エウリディケを連れて地上へと向かいました。
しばらく行くと、やがてかすかに地上の光が見えてきました。あともう少しだという喜びで、
オルフェウスは思わず妻の方へと振り返ってしまいました。
するとたちまち、エウリディケは冥界へ連れ戻されてしまったのです。
驚いたオルフェウスは、急いで取って返し、再びプルトーンに願い出ました。
が、今度は、彼がいくら琴を奏でても、願いを聞いてはもらえませんでした。
妻を連れ戻せないことを知ったオルフェウスは地上へと戻りましたが、それからは、琴を奏でながら、
ただただ野山をさ迷い歩き、ついには川に身を投げて死んでしまったのです。見事な演奏家であった
オルフェウスの死を哀れんだゼウスは、流れていた彼の琴を拾い、天にあげて星座にしました。
静かな夜には、今でも、悲しい琴の調べが星空から聞こえてくる、ということです。
「こと座の物語」はここまでです。
著:Shiba
(c)さいたまプラネタリウムクリエイト 2023