「おひつじ座 黄金の毛をもつ牡羊の物語」

秋の星空

2023年10月31日20時頃の南南東のさいたま市の星空


 2023年の10月31日の夜空は,29日に満月を迎えた月が日の入りから少し経った頃に昇ってきています。 南の空正面には,秋の四辺形が見えています。


 黄道十二星座、いわゆるお誕生月の星座、その初めにあげられる星座はおひつじ座。
4月、新年度のスタート。その4月には、誕生日の星座はおひつじ座という方も多いかと思います。
このヒツジは、伝令の神ヘルメスが、父である大神ゼウスから預けられていたヒツジで、体の毛が黄金で出来ていたうえに、空を飛び、人の言葉を話すことも出来たそうです。
そしてこの、黄金の毛を持つ牡羊には、次のような物語が語り伝えられています。

 テッサリアの王様にはネペレーというお妃様がいたのですが、王様はこのネペレーを追い出し、新たに、テーバイ王の娘であるイノーをお妃に迎えました。
やがて、王様とこの新しいお妃との間にはふたりのこどもが誕生するのですが、王様には、前のお妃ネペレーとの間にも、プリクソスという王子とヘレという王女がいました。

 自分の子どもたちに王位を継がせたいイノーは、前の妃の子供であるこの二人の兄妹を、あれこれと企んでは陥れようとします。
 ある時イノーは、畑にまく種を火であぶらせ、芽が出ないようにしてしまいました。このため、この年は作物が出来なくなってしまい、人々は飢えに苦しみます。
 困った王様が、どうしたらよいのかと大神ゼウスに信託を伺おうとすると、イノーは神官たちをだまし、「王子プリクソスを生贄に捧げなければならない」と告げさせたのです。神様のお告げでは逆らえず、王様は王子のプリクソスを生け贄に捧げなければならなくなってしまいます。

 遠くから子供達を見守り続けていた前のお妃ネペレーは、このことを知ると、大神ゼウスに頼んで、ヘルメスに預けている黄金の毛をもつ牡羊を、我が子プリクソスとヘレのもとに差し向け、二人をテッサリアから遠くへと逃がしてもらうことにしたのです。
ただちに救出に向かったこの牡羊は、二人を背中に乗せて大空へと舞い上がり、テッサリアから遠い国をめざして飛んで行きました。が、しばらく飛んでいるうちに、妹のヘレは思わず下を眺めてしまい、あまりの高さに目がくらんで、下の海へと落ちてしまいました。
妹を助けられず、プリクソスは泣いて悲しみますが、ヒツジは、君だけでも逃げ延びなければとプリクソスを慰め、飛び続けて黒海西岸のコルキスという国にたどり着きました。
コルキスの王様はテッサリアの王子プリクソスを温かく迎え入れ、その後、王子はコルキスの王女と結婚し、その地で幸せに暮らしました。そして彼は、自分を救い出してくれたこの牡羊が亡くなると、その黄金の毛皮を国の宝として、一本のかしの木に吊るし、眠ることのない竜にそれを守らせました。

 この黄金の毛をもつヒツジが、おひつじ座、ということですが、このおひつじ座にはまだこれに続く物語があります。アルゴ遠征隊の冒険の物語です。
アルゴ船というのは、ギリシアの王子イアソンがアルゴスという船大工に造らせた巨大な船。ギリシアの王子イアソンの父は、弟に王位を奪われ、幼いイアソンはケンタウルス族のケイロンに育てられました。大人になったイアソンは王位を返してもらいたいと申し入れましたが、 それならば、黒海東岸のコルキスにあるという黄金の羊の毛皮を取ってこいという条件を申し渡されました。
 そこでイアソンは、巨大な船を建造させ、その冒険に参加してくれる仲間を募ったのです。 すると、彼の呼びかけに応えて、ヘラクレスやカストルとポルックス、アスクレピウスやオルフェウスなど、ギリシアの若者たち50人が集まり、彼は集まった仲間たちと一緒に、その巨大な船でコルキスに向け、冒険の旅に出発したのです。 アルゴ船は途中、黒海の入口にある2つの大きな岩の間を通るときに、船尾の部分をもぎ取られたりしたのですけど、ともかく無事にコルキス王国に到着。彼に恋したコルキスの王女メディアの助けもあって、イアソンは黄金の牡羊の毛皮を持ち帰ることが出来ました。

 と、これがおひつじ座の物語です。
 そして、この巨大な冒険船、アルゴ船も、アルゴ船座という星座になったのです。が、このアルゴ船座は、あまりにも巨大だったので、18世紀に、フランスの天文学者によって、ほ座、とも座、らしんばん座、りゅうこつ座という4つの星座に分割されました。
おひつじ座は秋の星座。ほ座、とも座、らしんばん座、りゅうこつ座は、冬の星座です。

 おひつじ座はあまり目立つ星座ではないのですが、秋の夜空で見つけやすいペガスス座の胴体、ペガススの四辺形からこのおひつじ座を見つけることが出来ます。
というか、おひつじ座のあるあたりがわかります。ペガススの四辺形の北側の辺を東に延ばすと、おひつじ座の2等星ハマルを見つけることができます。星がよく見えるところでなら、そこに、 おひつじ座を見つけることが出来ますし、星があまり見えないこのあたりでは、そのあたりにおひつじ座があるのだなとわかります。

 今日の物語を思い出しながら、澄み切った秋の夜空に、おひつじ座を探してみてください。

著:Shiba

(c)さいたまプラネタリウムクリエイト 2023

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