アルゴ船座の物語
2025年12月25日3時頃のケアンズの南の星空
今回は日本を飛び出してオーストラリア ケアンズの星空を眺めていきたいと思います。
今回は、アルゴ船座の物語をお送りします。
冬の夜空と言えば、オリオン座と冬のダイヤモンドとも言われる7つの1等星ですが、その、冬のダイヤモンドを形作る7つの1等星の1つ、全天で1番明るい恒星、おおいぬ座のシリウスの南、地平線近くに、竜骨座のα星、全天で2番目に明るい恒星カノープスがあります。この星、南中高度があまりに低いので、北日本では地平線上に現れず、日本でも南の地域でないと、しかも冬から春にと言う2月頃でないとなかなか見ることが出来ません。中国にはこの星カノープスを見ると長生きできるという言い伝えがあるそうです。
ところで、この竜骨座の近くには、帆座、艫座、羅針盤座という、船をイメージするような名前の星座が集まっています。そう、このあたりには昔、アルゴ座とかアルゴ船座と呼ばれる、巨大な船の星座があったのです。
アルゴ船というのは、ギリシア神話に登場する船で、昔、ギリシアの東部地域にあったイオルコスと言う国の王子イアソンが造った巨大な冒険船です。
イアソンの父親は弟に王様の位を奪われ、幼いイアソンはケンタウロスのケイローンに育てられました。やがて立派に成長したイアソンが、国王となっているその叔父さんに、王様の位を帰してもらおうとしたのですが、「王位を帰して欲しいなら、黒海の東岸にあるコルキスという国の王様が持つ、黄金の羊の毛皮を取ってこい」と告げられたのです。
そこでイアソンは、アルゴスと言う名の船大工に船を造らせました。その、イアソンが造ったその巨大な船が船大工の名を取ってアルゴ船。そしてイアソンは、その冒険に参加してくれる仲間を募りました。すると、彼の呼びかけに応えて、ヘラクレスやカストルとポルックス、アスクレピウスやオルフェウスなど、ギリシアの若者たち50人が集まりました。イアソンは、集まった仲間たちと一緒に、その巨大な船でコルキスに向けて出発。ここに、ギリシャ神話の中でもひときわ有名な、この、黄金の牡羊の毛皮を得るための、アルゴ遠征隊の冒険がはじまります。
アルゴ船は途中、黒海の入口にある2つの大きな岩の間を通るときに、船尾の部分をもぎ取られたりしましたけど、ともかく無事にコルキス王国に到着して、イアソンに一目惚れしたコルキスの王女メディアの助けもあって、この毛皮を持ち帰ることが出来たのです。
そのアルゴ船はアルゴ船座という星座になったのですが、この星座は、あまりにも巨大だったので、やがて、ほ座、とも座、りゅうこつ座と船の各部分に分けて呼ばれるようになり、18世紀には、ここにらしんばん座が加わって、このアルゴ船座の領域は、今では、アルゴ船座に代わって、帆座、とも座、竜骨座にらしんばん座という、これら4つの星座で構成されています。
ところで、この物語に登場する黄金の毛皮の持ち主である牡羊というのが、おひつじ座。おひつじ座はあまり目立つ星座ではありませんが、古くからあった星座で、黄道十二星座のひとつにもなっています。
このヒツジは、ヘルメスが大神・ゼウスから預けられていたヒツジで、毛が黄金だっただけでなく、空を飛び、人の言葉を話すことができたと伝えられています。
テッサリアの王には雲の精霊・ネペレーという妃がいたのですが、彼はこのネペレーを追い出し、新たにテーバイ王の娘であるイノーを妃に迎えました。自分の子供を王様の跡継ぎにしたいと思うこの新しいお妃イノーには、前のお妃ネペレーの子供達が邪魔でした。
そしてある時、この金毛の牡羊は大神ゼウスに命じられて、継母イノーに殺されそうになっていた、先の王妃ネペレーの子、王子のプリクソスと妹のヘレ王女の救出に向かい、二人を背中に乗せ、空を飛んで、遠くの国を目指しました。その途中、王女ヘレはあまりの高さに目がくらんで、牡羊の背中から下に広がる海に落ちてしまいました。
おぼれる妹を助けることが出来なかったと泣いて悲しむプリクソスを、牡羊は、君だけでも逃げ延びなければと慰め、やがて、黒海西岸のコルキスという国にたどり着きます。コルキスの王はプリクソスを温かく向かい入れ、その後、プリクソスはコルキスの王女と結婚し、その地で幸せに暮らしました。彼は自分を救い出してくれたこの牡羊が亡くなると、その黄金の毛皮を国の宝として、眠ることのない竜にそれを守らせたと伝えられています。
おひつじ座は、あまり目立つ星座ではありませんが、古くからあった星座で、黄道十二星座のひとつにもなっています。おひつじ座は秋の星座ですが、冬でも夜の早い時間、そう、9時頃でしたら、オリオン座の西のおうし座の、そのまた西に、見ることが出来ます。
ほ座も、とも座も、りゅうこつ座やらしんばん座も、カノープス以外は暗い星が多いですし、地平線に近い星座なので、南の地域でないと、その全体の姿は見えないのですが、でも、せめて、冬の夜空を眺めながら、アルゴ遠征隊の物語や空飛ぶ黄金の牡羊の物語を思い出していただけたらと思います。
著:Shiba
(c)さいたまプラネタリウムクリエイト 2025
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