『足あとの落し物』 サンタの袋には何が入ってるの? バイトの帰り道、さっき子どもからもらった質問を思う。 実はサンタの衣装の空き箱なんだけど、夢のないことは言えない。 袋に衣装を入れてバイト先に行き、次の日は別な場所へ。意外と便利なんだ。 と、突然 「足落としましたよ」 と、声がかかる。 振り向くと女性が一人。 と、指し示す先に赤いブーツ。 「あ、間違え。足じゃなくてブーツ。ふーん、こんなに軽いの。」 拾って僕の方へ差し出してくれる。 「ありがとうございます」と受け取り、袋の中に戻す。 いつの間に出歩いたんだか。 「もしかしてサンタさんのバイトですか?」 人差し指を口にあて、「内緒ですよ、サンタがサンタのバイトしてるなんて」と、秘密めいて答えてみる。 ちょっとポカーンとした表情のあと、あって感じで 「了解しました。特に子供には秘密ですね。」 と笑顔で答えてくれた。その素直さに、ちょっとイタズラ心が働いてしまう。 「このブーツ、軽かったでしょ?煙突に登りやすいように浮力つきなんです。 落としても雪に後が残らない。ほら。」 そう言ってさっきブーツが落ちていた場所を示し、 「だからサンタの足跡ってなかなかないらしいですよ。」と続ける。 「不思議ですねぇ、本当何ですか?ってサンタさんを疑うところで私何か失格って感じですけど・・・。」 落とした場所を見ながら、ちょっと舌を出して答えてくれる。 その失敗って感じの表情に、何だか全部話したくなる。いやいやそんなことしたら自分がサンタ失格では ないか。 「そしたらちょっとだけ、信じてもらえるように。 今度のふたご座流星群の時にじいっと空を見ていてください。特に流れ星が消えるところを。 サンタが袋を構えて、捕まえているのが見えてきますよ。」 直ぐには飲み込めません、という顔をしている彼女 「流れ星って・・・、お願い事をするとかなうっていう・・・、あの流れ星ですよね?」 「そう、皆の願いが詰まった流れ星をこの袋で捕まえるとね、みんなへのプレゼントに変わるんです。 こうして日中はバイトしているくらいですから、プレゼント買うお金なんて・・・」 と余計なことまで話してしまう。いけない、いけない。 「すいません、話しすぎました。ブーツありがとうございました。」と立ち去ろうとすると、僕の背中に 向かって、彼女がつぶやいた。 「そんな不思議な話をして、私の中に足あとだけ残して・・・。」 ふたご座流星群当日。 今年は月が明るくてあんまり見えないけれど、その分たくさん願いのつまった流れ星が多い。 一つも漏らさないように袋に集めていく。 ある流れ星を捕まえた時、ちょっといつもとは違う感じがした。 袋の中を見ると、“僕の時間”が入っていた。 お届け先は、この間の彼女。 サンタにとって忙しいクリスマスの夜、会うための時間を願ってくれたみたいだ…。 《著:セイジ》 (c) セイジ/さいたまプラネタリウムクリエイト 2013 |