.**..*..*..** シャウラ **..*..*..**.


住宅街から離れた高台の公園。街灯も少ないせいか深夜に訪れる者はいない。

小さなLEDライトの明かりを頼りに目的の場所を目指す。

公園の隅に設置された木製のベンチ。

ベンチに腰掛けライトを消す。目を閉じて周りの音に耳を澄ます。風の音。虫の声。夏の気配。

いつも夜は少し怖い。そして、ドキドキする。

ベンチに横たわり夏の夜空を眺めれば、吸い込まれるような、落ちてゆくような感覚。



------このまま溺れそうだ・・・


と思ったところで左手の指先に何かが触れた。

音も無く近づいてきた“彼女”の身体はしっとりと夜露に濡れている。

そっと抱き寄せると、“彼女”は僕の胸に顔を埋めた。湿り気をおびた身体は独特の香りがする。

なだらかな身体のラインが頭上に輝く星座とつながった。星をなぞるように背中をなでれば、
くすぐったいのか気持ちいいのか、顎をくっと上げて目を閉じた。

 

 「あの赤い星が見える?」

 

耳元でそう問えば、大きな瞳を開き“彼女”が空を見上げる。不思議な色をした瞳。
濡れた角膜に星の光が映り込む。

身体に例えれば丁度肩甲骨のあたり、真っ赤に燃える一等星。

 

 「さそり座のアンタレス」

 

少し骨張った肩甲骨をなでながら、僕は暗闇に溶けてしまいそうな“彼女”を見つめた。

背中にまわした手を移動させ頭をなでる。“彼女”はまた瞳を閉じた。

 

 

  眉間に触れる。

  「ジュバ」

  美しい二等星。

 



  左耳。“彼女”が頭を振る。耳に触れられるのは苦手みたいだ。

  「アクラブ」

  移り気な“彼女”に似た多重星。

 

 

  左手の先。

  「グラフィアス」

  手入れされた爪は、時折僕に傷をつける。

 

 

  右肩。

  「アルニャータ」

 

 

  アンタレスを通って細い腰を抱く。

  「ウェイ」

  二等星。

 

 

  背骨に沿って指を這わす。

  「見かけの二重星グラフィアス」

  尾骨あたりを軽く刺激すると小さな声が漏れた。

 

 

  さらにその先へと手を伸ばす。

  「サルガス、ギルタブは二等星」

  細く、長く、しなやかなライン。

 

 

  そして、尻尾の先。

 

  「シャウラ」

 

  さそりの毒針。

 

 
 

 

“彼女”は黒く長い尻尾を優雅に振ると、「ニャア」と一声鳴き、僕の腕の中からするりと抜け出した。

そして、何もなかったように暗闇の中へと、消えた。

 


 《著:ユウ》


(c)ユウ/さいたまプラネタリウムクリエイト 2014


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