『デイジー』



 
 家の近所にある公園の花壇には四季折々いろんな花が植えられ育てられている。
 春はチューリップ、夏はひまわり、秋はコスモス、冬の今は真っ白なデイジー。
 花の横には花の名前、原産国、花言葉が書かれたプレート。デイジーの花言葉は「乙女の無邪気」「平和」「希望」。
 小学校からの帰り道、ホントは寄り道はしちゃいけないんだけれど、
ボクは公園に立ち寄ってベンチからぼんやりと花壇を眺めた。
真っ白な細い花びら、真ん中はふんわりとまあるい黄色、鮮やかな緑色の葉っぱ、その根元がキラリと光った。
 近寄ってみる。

 ----ガラス?

 薄いピンク色をした2センチほどの物体。
 手に取ってみる。

 ----石?

 学校の理科室にある鉱物標本でこんな石を見たことがある。

 ----蛍石、だっけ?

 正八面体の石。この間テレビで見たアニメにも同じような石が出てきていた。その石は青色をしていたけれど・・・

 ボクはその石をハンカチに包んでポケットへとしまった。


 家に帰ると石を部屋の窓辺に置いて眺めてみた。外側は薄いピンク色をしているけれど、中心部分は青色に見える。
その境は紫色。
早起きをした時に見た朝焼けの色によく似ている。
 満月の夜、ボクは望遠鏡で月を眺めることにしているのだけれど、今夜はなんとなくそんな気分になれなくて、
ただ石を見つめた。

 月明かりに照らされた石は、ぼんやりと内側から光を放っているように見えた。


 夢の中で誰かに呼ばれた気がして目が覚めた。部屋には誰もいない。月はもう消えてしまったのに、石はまだ光っている。
 もうすぐ夜明け。カーテンを開けると石を拾った公園が見える。

 ----人影?

 明らかに女の子とわかる街灯に照らされた後ろ姿。なぜか胸が高鳴った。
 慌てて着替え、コートのポケットに石を入れる。


 ボクが石を拾った花壇の辺りでなにかを探している女の子。
 真っ白いダッフルコートに暖かそうな黄色のマフラー。花壇で揺れているデイジーと同じ姿。

 「なにを探してるの?」

 振り返った女の子は知らない子だった。同じ小学校ではないようだ。ボクより少し背が高い、中学生なのかもしれない。
 長いストレートの黒い髪、眉の上でまっすぐに切りそろえられた前髪、おばあちゃんちで見た日本人形によく似ていた。

 「スイセイの心の欠片がここに落ちた気がしたから・・・」

 少し低めの柔らかな声。ボクはまだ声変わりしていない自分の高い声を恨めしく思った。でも、話さずにはいられない。

 「スイセイってこの間消えてしまった星のこと?」

 チキュウに近づいた旅する星。旅の途中でタイヨウの熱を浴び崩壊してしまった星。
 ボクも一度この公園からスイセイの姿を見た。白い尾を引く姿。美しい流れ星。
 ポケット中の石が熱を持った気がした。
 ボクは石をポケットから取り出し女の子の目の前で手を開いた。

 「昨日ここで拾ったんだ」

 「持ってもいい?」

 「もちろん」

 女の子は細く白い指先でそっと石をつまむと東の空にかざした。待ちかねていたように空が色を変えていく。

 「彼女の心・・・やっぱり、きれい・・・」

 朝焼けに染まった世界の中でふわりと微笑んだ女の子の横顔に、ボクは恋をした。

 「その石キミにあげるよ」

 「でも・・・」

 困ったように目を伏せた感じがなんだかかわいい。

 「その代わり、キミの名前を教えて」

 朝焼けに照らされ、スイセイの心が輝いていた。



《著:ユウ》


 (c) ユウ/さいたまプラネタリウムクリエイト 2014


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